いでたち通信は点字に翻訳し、視覚障害者に配布されています。

   
  1.二度とない人生だから(1)                 飯島 みや子

 

 昭和38年、戦後の苦しい生活からやっと抜け出て生活の目星も着き、お金のある人は電化製品を買い求めているが、一般にはテレビが普及しているころであり、巷ではまだ傷痍軍人の姿が見られていた。身体障害者福祉法も26年に法令で実施されたが、表面だけの法令で害の人々迄には回らない時代で、戦後の後始末で手いっぱいの時代であった。
 ある日、新聞の片隅に日本赤十字神奈川県支部で点訳者募集の文字を見つけ、ふと故郷の近所に住んでいた盲人の姿が目に浮かんだ。そうだ私はこれからこの奉仕活動を始めようと考えた。早速尋ねると狭い部屋に案内された。年配の二人の女性の方が点字を打っていました。私たちも始めたばかりですよと話され「一緒に勉強しましょう」と誘って頂いた。一年生と同じあいうえおから始まり、指導する方もいなく、一枚の参考書を見て五十音を打ち始めました。区切りを付けて魚や野菜の名前を打ち始め文法の組み合わせを三人で話し合った。
 自分の生活が精一杯の時代、福祉活動をなされる方は本当に特殊な方と思っていたが、お二人はやはり大家の奥様で物静かで言葉使いも丁寧であった。仲よく私を指導して頂き勉強していたが家庭の事情で一人はやめてしまった。その内暫く休んでいられた先輩が見えて狭い部屋で又三人で勉強を始めた。オリンピックが日本で開催される頃には夜学生が勉強に集まり二階を解放されました。その後予て増築されていた根岸に点字図書館として開かれ、障碍者の方々も訪れる様になった。やがて二俣川にライトセンターが出来て移り、身体障害者福祉法が施行され視覚障害人々、様々なボランティアをされる人が集まり勉強の場となりました。

 (編集部注 飯島みや子様が平成309、令和元年7月と2冊の本を上梓され寄贈されました。飯島様は昔から点字に取り組まれ、このいでたち通信の発刊に大変ご協力いただいた方です。ご本の「はじめに」の部分を掲載いたします。)

 

2.ソースかつ丼                         いでたろう

 

 材料一人分 豚ロース(とんかつ用)200g、玉ねぎ半個

(たれ) ウスターソース50cc、水50cc、みりん大匙2、砂糖小さじ、顆粒和風だし小匙1、(衣)薄力粉大匙1、パン粉大匙2、溶き卵1個、塩、コショウ少々、ご飯80g、溶き卵2個、カイワレ大根適量
 1. 豚肉の筋に切れ目を入れ、両面に塩コショウ、薄力粉をまぶし、溶き卵、パン粉をつける。
 2. 180度の油できつね色になるまで揚げ、食べやすい大きさに切る。
 3. フライパンにたれの材料と薄切りにした玉ねぎを入れ、ひと煮立ちさせてから、2.のかつを入れ両面浸し、溶き卵をかけ半熟になるまで煮る。
 4. どんぶりご飯に3.を盛り付け出来上がり。

ポイント 玉子は半熟、たれは薄目、多めがおいしい。

 

3.「思いつくままの走り書き」 -ジャストミート-         中村 斉

 

読売巨人軍の長嶋茂雄さんは、投手が投げたボールと自分が持っているバットとをジャストミートさせれば打球はおのずからヒットになると説いた。長嶋さんだからできるのだが、言うは安く実行は難しい。同様に、障害当事者の要求とそれに応じた行為をジャストミートさせることはなかなかに困難だ。
 1月22日久しぶりにみなとみらい大ホールへオルガンコンサートを聴きに出かけた。そのコンサートはメモリアルなコンサートであると広報に掲載されていたが、米国でもオルガンの演奏が最も盛んなボストンから、ボストンオルガニストギルド(協会)の副代表も勤められたクリスチャンフリード氏を招聘されたのだった。特別なコンサートではあったが、ホールのスタッフは淡々と観客を誘導されていた。此のホールのスタッフはいつも障害者に暖かく接してくださる。私は車椅子で移動するので開場時刻15分前に到着したところ、目敏く私を発見し席まで車椅子で異動できる動線に従い誘導し着席させてくれた。
 オルガンの演奏は期待をはるかにこえる素晴らしいものでホール全体を響かせて聴衆一人ひとりを暖かく包み幸福な時間を過ごさせていただいた。総てがパーフェクトで満足ではあったが、そのイベントをシビアに振り返ったとき同行した妻は開演以前にプログラムの内容を私に読んであげたかったという。座席指定のコンサートの場合は出来るだけ妻と私の席を並列に指定するのだが、今回は前後の位置関係になってしまい、私の視覚障害の部分の補いができなかったことを残念がっていた。
 2ヶ月前の本誌の巻頭の一文に林氏は「障害の皆さんはハザードマップを一読することを薦めます」と強調された。大変に有難く心から感謝した。
 数年前ハザードマップが配布されたとき、視障協の会員はそのハザードマップを解読できないことを口惜しんだ。またボランティアさん達は内容の重大性から、またマップの信頼性から、それを読み解くことに腰を引いておられたことを攻めることは出来ない。結局地域に何世代も住んでおられた方のお話を頼りにするほかはなかった。ジャストミートできなかったことを思い出した。
 さて、電子機器が発達した現在、ハザードマップを解読してくれる機器があるだろうか。おそらく、人だけが現在もその役割を果たしてくれるのだろうと、私は思っている。

 

4.編集後記                           石澤 洋一

 

 最近『大人のための道徳教科書』(斎藤孝、育鵬社)を購入しました。「道徳」という科目が、小学校には2018年、中学校には2019年導入されたとのこと。しかし、本当に道徳教育が必要なのは小中学生なのでしょうか?と2018年の日本大学アメリカンフットボール部の危険タックルをめぐる一連の騒動のことを挙げている。当該学生が記者会見を開いたのに対し、「大人」の方が曖昧な態度をとった。 終戦後、GHQの方針に従って学校教育から「修身の授業がなくなり、儒教的道徳観に関することなどが排除される。
 戦後の日本は焦土から立ち上がり、奇跡のような経済復興を成し遂げる。それを担ったのは戦後否定されたはずの戦前の教育を受けた人たちである。彼らには、『礼節を守りまじめに学び、勤勉に働くことが大切なのだ』という儒教的な教えが根付いていた。メンタルタフで、簡単にはへこたれない。
 今の若い人が『心が折れやすい』のは、そうした土台が崩れてしまったせいもあると思います。戦後70年以上、あいまいな道徳教育を続け、共有できる精神の柱を失った弊害は随所に現れている。その一つが「公共心」の欠如だろう。「自分さえ良ければいい」と私利私欲に走り、事件やスキャンダルを引き起こす。と筆者は言っている。
 しかし、私は学校での道徳教育は無かったものの、日本の奇跡のような経済復興を成し遂げた人たち(老若男女を問わず)は、自分達の子供や孫に『礼節を守り、まじめに学び、勤勉に働くことが大切なのだ』ということを伝えて来たのではないか、これからがどうなるかが懸念されるのでないだろうか。

 

 


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