いでたち通信は点字に翻訳し、視覚障害者に配布されています。
 
  
 

1.四感プラス脳                         丸山 弘人

今から12年前、神奈川県視覚障害援助赤十字奉仕団の誘導実技講座を受けた時、最初に言われたことは、誘導者は視覚障害者の目の代わりを務めてくださいとのことでした。それ以来誘導する時は、周りの状況をできるだけ事細かく説明するように努めてきたが、年が進むにつれて、一から十まで詳しく説明することが、だんだんと大変になり、今では時として相手が視覚障害者であることも忘れて、友達と手をつないで歩いているような錯覚を起こすことがある。それでも何も問題なく誘導できているのは、お互いの信頼関係があることと、相手の方の四感プラス脳を駆使した想像力が、私の数倍もあるからだと思う。私の見える範囲は180度の視野の状況しかないが、相手の方は360度の範囲のことを、脳と耳と鼻と口と手足をフル回転しながら正確に捕まえている。
 私は若い頃、勝新太郎主演の座頭市をよく見た。あのとぼけた素振りと殺陣が実に痛快であったが、これも当時は映画の中の出来事で現実離れした話と理解していた。しかしながら、視覚障害者の方と接してみると、決して現実離れの話ではなく、実際に起こりうる話であると思うようになった。相手が牙をむくや否や、ローソクの火を切り取って撹乱し、後ろから忍び寄る悪党を、振り向きざまに切り倒すといった動作が、頭の中に捉えた情報に基づき、正確な行動として表れているのだと思う。
 映画に関してもう一つ感じることがある。視覚障害者が聴く映画は、映画本体の会話と音や音楽に、状況説明が追加で挿入されている。この状況説明が、すべてを説明しようとするあまりに、本来の会話や音を聞きづらくすることがある。想像力にたけた視覚障害者の皆さんには、必要最小限の状況説明で十分ではないかと思うが、如何でしょうか。

 

  2.なすとじゃこの甘辛煮                      畠山 工

素材分量2人分、 
 なす2個、しめじ100グラム、ちりめんじゃこ3分の1カップ、赤唐辛子1本、青じそ3枚、ごま油大さじ2、しょうゆ大さじ1、みりん大さじ1、酒大さじ1

(1)なすは縦半分に割り、斜め薄切りにする。しめじは根元を切り落としてバラバラにする。

(2)赤唐辛子は種を取り除き、輪切りにする。青じそは粗みじん切りにする。

(3)フライパンにごま油を熱し、なすとしめじを炒める。

(4)ちりめんじゃこ、赤唐辛子、調味料を加え、汁気がなくなるまで炒め煮にする。

(5)器に盛りつけ、青じそをちらす。

エネルギー206キロカロリー、 塩分1.8グラム 

 

3.「思いつくままの走り書き」―俳句を詠む―             中村 斉

 僕ら視障者が俳句を詠むとしたら、イマジネーションを充分働かせなければならない。それだけに、なかなか困難な作業ではあるが、どうやら一句がまとまったときは、芭蕉翁や一茶と友人になれたかのような気分にもなるものだ。
 「秋の陽の急ぎ足なる西の空」
 20年ほど前 定年退職して朝食後ゆったりとラジオを楽しむことが出来る身分になった頃の事だった。その頃、ニッポン放送の「お早う中年探偵団」は8時以降の30分は、リスナーの投稿を中心に構成されていた。その朝、キャスターの高嶋さんが「いい季節になりました。一句ひねってファックスしていただけませんか」「佳句3句には賞金をさしあげます」と告知された。そこで、腕に覚えのない私ですが、賞金という言葉に反応して、こちらは、兼ねて用意のファックス用紙に上の句を殴り書きして送信したところ しばらくして局から電話があり「○時○分頃電話をお掛けしますので、先程ご投稿いただいた俳句をお読みいただきたい。そのままオンエアーになります。」というのだ。それから後は万端スムーズにこなし第1位の賞金をいただいたしだい。追いかけるように電話がかかった。今度は聴きなれた教え子のK君の声「先生、聞いていました。おめでとうございます。出勤途中の車の中からですが、まずはお祝いの言葉を申し上げます。行ってまいります」という訳で、ちょっといい気分だった。バブルのおわり頃だったので、手にした賞金はにんまりする額だった。
 不順な動機で始めた俳句だったが、次の段階では、名誉が欲しくなり、横須賀市の文化祭に投稿した。
 「いろ鳥の溶け込むまでに街熟す」 
嬉しいことに佳作の一句として採っていただいた。歳時記も読んでいたので季語もいくつかおぼえていて、使ってみたいストックもあり、応募した句の冒頭につかってみたところ、選評のときに「いろ鳥」を使ったことを「覚えたばかりの季語を、勇気を持って良く使った。或る意味、俳句は季語で決まります」批評していただいた。「古今の名句を読みなさい」というご指示と理解した。いまは、細々ながら、月間十句を目標に作句している。スナップ写真を撮る代わりにと思いながら・・・。

 

  4.編集後記                           菊地 賢三

住宅地内の老朽家屋が問題になっています。このタイミングで「空き家率は13.5%と過去最高」との政府統計の公表がありました。どうしてもこの統計を老朽家屋問題と結びつけてしまいます。しかしこの統計を良く見てみるとこの空き家には、一定の空き部屋が必要な賃貸用家屋が半分を占めていますし、別荘や立替中の団地も含まれています。状況に関係なく住める家で人の住んでいない家の調査結果なのです。そしてまったく驚くことに、肝心の人が住めそうにない老朽家屋は空き家に含まれていません。つまりこの統計は老朽家屋の問題に関係ないということです。報道でもそうですが自分がよほどしっかりしていないと、勝手な思い込み、勝手な解釈ということになってしまいます。思い込まされているのかもしれません。

 


 
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