1 聞き、感じる総合力  馬場威力
 或る中年の全盲の方と2回続けておしゃべりをしたことがあった。それは、私が脳梗塞で、入院、手術をする前と、退院した直後とであった。その方はマッサージ師で、それだけに人体の構造を心身ともによく通じたかたでもあった。1回目は、いやらしい脳梗塞を中心にしてのおしゃべりだったが、2回目は、一応手術は成功し、無事退院した直後で、話題は当然病気の話、手術の話に終始した。
 彼曰く、馬場さん、先日はびくびくしておられたけれど、今日は笑顔、凄くうれしそうですね、と。私の表情を見ながら言っているように思われた。確かに、声の調子、話題の内容に大きな変化があったのだろう、と思い、いい歳をして、内心を見透かされたようで、大いに未熟さを感じ、反省させられたものだった。
 それくらいに視力を失っても、聴力や感じる力は、視力分だけ増えるように思われた。もちろん、その努力は必要だろうけれど。彼の感性に改めて驚いた次第だった。

2 .鶏の治部煮  畠山工
 素材分量2人分
鶏もも肉1枚、生しいたけ2枚、京にんじん4分の1本、
小松菜4分の1束、塩少々、片栗粉少々、おろしわさび適量、
かつおだし適量、うすくちしょうゆ大さじ1杯半、みりん大さじ2
(1)鶏肉は一口大にそぎ切りにして塩をかるく振っておく。
(2)にんじんは皮を剥いて縦に幅5センチに切り、さっと下ゆでする。小松菜はさっとゆでて水けをしぼり、長さ4センチに切る。
(3)しいたけは軸を切り落とし、半分に切る。
(4)鍋にカップ1杯の水と調味料を入れて煮立て、小松菜以外の野菜を入れてサット火を通す。
(5)鶏肉に片栗粉を薄くまぶし、余分な粉をはたき落として鍋に加え、鶏肉に火が通ったら小松菜を加えてひと煮する。
(6)器に盛っておろしわさびを天盛りする。
 エネルギー269カロリー、塩分3グラム

3 一句拝見(いでたち11月いろは句会より)  
駅弁のまだ温かき茸飯        加藤孝二
露草の路肩にひそと臥せて咲き   成田真啓
秋深し妻の背に亡き母を見る    宗像普
佇みし夜明けの庭の風寒し     斎藤準之助
孫帰り妻と二人の夜長かな     千葉宰
禅寺の冬を構える庭木かな     中里武子

「思いつくままの走り書き」(54)ワンコインの募金  中村斉
 小春日和の日に近くの床屋さんへ行った。此処に転居してからずっとお世話になっているのだが、車椅子で移動するようになってからも通い続けている。スロープで店内に入りやすいのが一つの理由だ。     
 ご主人は「散髪して、さっぱりしていただくことと、軽い新鮮な話題と情報を提供して、心もすっきりしていただくこと」をモットーにしておられる。確かに理髪店は街角のケアセンターだ。
 ところでお店で流れているラジオのニッポン放送では年に一度「通りゃんせ募金」を行なって、音の出る信号機を設置することや録音図書を作成する基金としている。33年目に当る今年も12月24日と25日の両日視覚障害の啓発番組を放送して募金を呼びかける。神奈川県理容業協同組合ではこのキャンペーンに協賛して募金をつづけている。私もわずかの釣銭を委託して視覚障害を持つ仲間への連帯の意思表示をして帰宅した。

スキンケア入浴剤                     健康歳時記より
 日増しに寒さが厳しくなってきました。空気も乾燥し、かぜをひきやすくなったり、皮膚のトラブルが起こりやすくなったりします。そこで、これからの季節に欠かせないのが、心身の疲れの解消や肌荒れに最適なスキンケア入浴剤です。保湿成分が入浴中に皮膚に吸着浸透し、肌をしっとりスベスベにし、湯冷めしにくくなります。
 正常な皮膚には、セラミドという脂質が角質層の水分を保っていて、外部の刺激や侵入物から体を守っています。しかし乾燥し荒れた肌は、細菌が繁殖しやすい状態になります。スキンケア保湿成分が配合された入浴剤を、お風呂に使用することにより、肌に水分が吸収され、乾燥していた細胞は膨れ上がり、正常な形に戻り、肌がしっとりスベスベになります。
 
思い出(1) 門前の小僧 飯島みや子
 5歳の孫と遊び帰り大船で電車から降りる時「大きくまたいで跳ねないで」と注意して足元を見ていたら「わかった」と言いながら反対側のホームを見て一目散に走った。「あっ、かけないで」と私も後を追った。電車が入るという構内放送が流れた。ホームの端を白杖でさがしながらうろうろしている男性の姿。「おじさん危ない」と叫びながらおじさんの手をぐいぐい引っ張って中ほどまで誘導するとその人はうずくまってしまった。
 電車の風圧で飛ばされるか線路に落ちるかの危機一髪であった。「おじさん僕が誘導するから立ちなさいよ。端っこ歩いてはだめだよ」と何度も繰り返す。小生意気な子供の言葉にやっと立ち上がったおじさんの手をとって話しながら階段目ざして誘導した。「おばあちゃんは色んな人を誘導しているんだ。僕だってできるんだ。」
 彼は糖尿病から失明し、友人も遠のき兄弟からも疎外され寂しい一人暮らしであった。以来誘導を引き受け孫も時々ついてきて、彼は水を得た魚のようであった。

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いでたち通信は点字に翻訳し、視覚障害者に配布されています。